生活保護受給者へのテーラーメイドな健康づくり支援に向けた新手法を開発
生活保護受給者(以下、受給者)は健康、住居、労働などさまざまな生活課題を抱えており、受給者の生活課題への支援は多様化しています。 そこで、東京大学大学院医学系研究科 近藤尚己准教授(研究当時、現:京都大学大学院教授)、上野恵子 同博士課程学生(研究当時、現:京都大学大学院助教)らの研究グループは、健康・生活支援の提供の必要性が高い高齢者を、年齢・性別・居住環境などの情報を用いて機械学習の手法(ソフトクラスタリング)で特徴の異なる小集団(セグメント)に類型化しました。 次いで、ケースワーカーへのインタビュー調査により、作成したセグメントが実在する受給者とどの程度類似しているかを検討しました。 その結果、男女それぞれ特徴が異なる5つのセグメントが作成されました。複数のセグメントが、ケースワーカーが実在すると感じられるものだったことが分かりました。 また、ケースワーカーが今まであまり意識しなかった特徴を持つセグメントも抽出できました。 本研究の成果に基づき、現在各セグメントに適した支援プランの提示を行うテーラーメイド型の健康づくり支援システムの開発を進めています。 本成果は、2023年8月3日に「International Journal for Equity in Health」にオンライン掲載されました。
令和4年度 厚生労働省社会福祉推進事業「被保護者健康管理支援事業における対象者の標準評価項目及び事業目標設定に関する調査研究」報告書
令和元年度厚生労働省社会福祉推進事業「生活保護受給者の受診行動に関連する要因への効果的な支援に関する調査研究事業」報告書
平成30年度厚生労働省社会福祉推進事業「社会的弱者への付き添い支援等社会的処方の効果の検証および生活困窮家庭の子どもへの支援に関する調査研究」報告書
生活保護を利用する高齢者のサブグループごとの日常生活上のニーズが明らかに
日本でも健康格差が社会問題となっています。健康格差を減少させるためには、個人レベルの介入から社会レベルの介入への変換が必要です。2021年より全国の福祉事務所で生活保護利用者への健康管理支援事業が必須事業となりました。そこで、本研究では、生活保護利用者の中でも特に健康・生活上の支援を必要としている高齢者に焦点を当て、生活保護を利用する高齢者のサブグループがどのような日常生活上のニーズを抱えているかを理解することを目的としました。
2021年に2自治体の福祉事務所のケースワーカー4人にインタビュー調査を実施しました。私たちが以前実施した量的研究で得られた生活保護を利用する高齢者の男女別の5つのサブグループの結果をケースワーカーに提示して、それぞれのサブグループが抱える日常生活上のニーズを聞き取りました。インタビューの結果、生活保護を利用する高齢者のサブグループには、次の5つの日常生活上のニーズがあることが明らかとなりました:①住居のニーズ、②金銭的ニーズ、③福祉サービス利用のニーズ、④医療ニーズ、⑤日常生活上のニーズなし。この結果から、生活保護を利用する高齢者のサブグループごとに適切な支援の介入が必要であることが分かりました。今後、他分野の専門職(保健師、社会福祉士など)にもインタビュー調査を行い、生活保護を利用する高齢者のサブグループの日常生活上のニーズをさらに理解することが望まれます。
本成果は、2024年7月14日にGlobal Health &Medicineにオンライン掲載されました。
論文へ第83回日本公衆衛生学会総会シンポジウムに座長として参加しました
2024年10月29~31日に札幌市で開催された第83回日本公衆衛生学会総会のシンポジウム32 「生活保護受給世帯の健康・生活を支援する:エビデンス・実践事例・将来展望」に座長として参加しました。演者の方々の発表が素晴らしく聞き入ってしまいました。もう一人の座長の斉藤雅茂先生(日本福祉大学)には座長としての仕切りを学ばせていただきました。
<座長のあいさつ>(抄録より抜粋) 令和3年より被保護者健康管理支援事業(以下、健康管理支援事業)が全国の福祉事務所で必須事業となり、福祉事務所が保有するデータを活用したエビデンスの構築が進められてきました。生活保護受給者では糖尿病の有病率が公的医療保険加入者よりも高いことや、生活保護受給者の中でも特に健康維持が難しい集団が存在することが報告されています。現在、全国の福祉事務所で、健康管理支援事業としてさまざまな取り組みが実施されるようになってきましたが、事業の効果的な実施体制や方法、事業実施上の課題に関する知見は十分に蓄積・共有されておらず、各福祉事務所が手探りで事業に取り組んでいるのが現状です。
そこで本シンポジウムでは、川内はるな氏(大阪医科薬科大学)にまず、既存の生活保護受給者の健康に関するエビデンスをレビューした成果を報告し、生活保護受給者の健康実態を定量的に報告していただき、現状を見える化・共有します。次に、久保木紀子氏(横浜創英大学)、武本翔子氏(豊中市福祉事務所)に、生活保護世帯の子どもと養育者への健康支援の取り組みおよび先駆的に健康管理支援事業を実施している自治体の実践例について、保健師の立場から報告していただきます。最後に、西岡大輔氏(大阪医科薬科大学)に、令和6年度厚生労働行政推進調査事業「生活保護受給者における効果的な健康支援方法の立案に向けた実証研究」における成果や議論などをもとに生活保護受給者の健康・生活支援の可能性とその課題について整理していただきます。これらの内容をもとに、今後の健康管理支援事業の展望をパネルディスカッションし、まとめます。
本シンポジウムは、生活保護受給世帯の健康支援や生活支援の効果的な実施に向けて、必要な事項や関係機関が果たすべき役割についてディスカッションし理解を深めること、そして施策のアップデートに資する提言をすることを目的としていますが、健康管理支援事業に関わる全国の担当者のみなさんのネットワーク形成も目指しています。現在、福祉事務所で健康管理支援事業に携わっている保健師、栄養士、ケースワーカーなどの担当者の方だけでなく、生活保護受給者の健康・生活支援に関わりうるすべての分野のみなさまからのご参加を心よりお待ちしています。